災害が激甚化する中、その土地の災害リスクや避難所の位置を示した「ハザードマップ」は、住民の防災意識を高め、円滑な避難につながる重要なツールです。自治体ごとに作成されていますが、紙などで見る図面は、視覚に頼った情報伝達が主で、視覚障がい者や小さな文字が読みにくい高齢者らにとって使いづらいのが難点です。こうした課題を解消し、「情報のバリアフリー」を実現するものとして全国の自治体で導入が加速しているのが、スマートフォン(スマホ)のアプリから音声で防災情報を聴くことができる「耳で聴くハザードマップ」です。
「この場所の住所は東京都中央区日本橋1丁目です。標高は-4.7㍍です。この場所は、最悪の場合、洪水による浸水が発生して、その深さが50㌢㍍から3㍍になることが想定されています」
これは「耳で聴くハザードマップ」で、東京・中央区の日本橋1丁目の洪水リスクを読み上げてくれた内容です。この耳で聴くハザードマップは、「日本視覚障がい情報普及支援協会」(JAVIS、ジャビス)が企画・監修し、Uni-Voice(ユニボイス)事業企画株式会社が開発した音声読み上げの無料アプリで利用できます。最大の特長は、スマホのGPS(全地球測位システム)機能を活用し、利用者の現在地に応じた防災情報などを、リアルタイムで読み上げる点にあります。
利用者がアプリを起動すると、現在地の「洪水浸水想定区域」や「土砂災害警戒区域」といったリスク情報が自動的に案内され、さらに、周辺5㌔以内にある避難場所を検索し、目的地までのルートを音声で案内してくれる機能も備えています。一般的な地図アプリの案内機能は、画面上の地図を見て移動することを前提としていますが、このアプリは視覚障がい者らの利用を最優先に想定しているため、右左折の指示や目的地までの残り距離など、直感的で分かりやすい音声ガイダンスが行われます。
このアプリの普及を支えているのは、自治体向けの「ユニボイス」という音声コード技術です。自治体が専用の作成ソフトを導入し、その地域のハザードマップデータを登録することで、利用者はアプリを通じて、「耳で聴くハザードマップ」の情報を取得できます。2024年4月の本格的なサービス開始以降、導入自治体は急速に拡大。JAVISによると、今年4月1日現在で、15都道県(全域対応)と、14政令市で導入・運用が進み、広域的な防災ネットワークが構築されています。
このうち青森県は、視覚障がい者や高齢者が命を守る情報を確実に得られるよう、24年度に全国に先駆けて「耳で聴くハザードマップ」を導入しました。公明党の伊吹信一(いぶきしんいち)県議が20年3月定例会で提案したことを機に動き出したもので、県内全40市町村をカバーする体制が実現。県は現在、点字図書などの貸し出しを行っている視覚障がい者情報センター(青森市)などを通じ、このアプリの普及と周知に努めています。
県視覚障がい者情報センターの利用者らに、このアプリについて尋ねたアンケート(24年度)では、「容易に操作できることが良い」「(まだ使ってはいないが)スマホに慣れてきたらサービスを使ってみたい」といった声が寄せられ、利便性の高いツールとして受け入れられ始めています。
アプリには災害関連情報の通知機能もあり、25年7月にカムチャツカ半島付近の地震や同12月の青森県東方沖地震での津波警報の際、自治体の避難所情報などの通知が利用者に届けられたこともあります。
伊吹県議は「今後は、市町村職員向けの研修会や県総合防災訓練といった具体的なイベントを通じ、健常者も含めて、アプリのさらなる普及と定着を推進していきたい」と語っています。
「耳で聴くハザードマップ」を導入する自治体が今後さらに増加し、全国どこでもこのアプリが利用できるようになれば、観光客や土地勘のない人々にとっても災害から命を守る強力なツールになると期待されています。
