<特集1>
盲学校のため教材を無償で開発・寄贈
~熊本大学の学生サークルが広げる支援の輪~
熊本大学工学部(熊本市)の公認サークル「ソレイユ」は、所属する30人ほどの学生が、ものづくりの専門知識・技術を生かして、視覚障がいのある子どもたち向けの教材などを無償で開発。全国の盲学校に寄贈する活動をしています。視覚障がい者向けの市販教材は数量が限られているだけに、ソレイユが製作した教材は、児童生徒に喜ばれています。その活動に迫りました。
■触れることに配慮された校舎模型
熊本県立盲学校(熊本市)には、精巧なアクリル製の音声式校舎模型が置かれています。指先が模型の各部屋に触れると、音声で「保健室」や「体育館」などと指先の現在地を告げてくれます。この校舎模型は、ソレイユが開発・寄贈した教材です。
角を触っても痛くないよう、徹底的に角を丸め、なめらかな手触りにもなっています。それ以前の模型は、教員が手作りしたものが使われていましたが、劣化や安全面での課題が多かったといいます。
紹介してくれた教員は、校舎模型の教育効果について「指が今どこにあるのか、どこの場所に何があるのか、それを生徒自らが発見者になることが一番大事です」と説明。「視覚障がい者は、指先の感覚が頼りになります。そのため、一度、教材で何か痛い、怖い思いをしてしまえば、二度と触ってくれません。今後の人生でも『触れる』ことに恐怖心を持ってしまいます。だから、このように配慮された模型を製作してくれたソレイユさんには感謝です」と語ります。
今年3月まで、ソレイユの代表を務めていた小野恭輔<きょうすけ>さんたちは、「校舎模型は、教室の大きさや廊下の幅、ドアの場所など細かく計算して製作しました。どこまでいっても活用する子どものためにとの思いで製作しました」と話します。さらに「年度によっては、生徒数の関係で校内の教室の名称が変わります。そのため、現場の教員が簡単に変更できるよう設計しました」と製作の苦労を明かしてくれました。
顧問の小林牧子<まきこ>教授は、教え子の背中を見守りながら、「『視覚障がいのある子どものために』との信念で、学生が入部して活動してくれ、本当にありがたい。教材を製作する学生の発想力にも、いつも感心しています」と述べます。
■大学技術職員の活動が原点。手伝った学生が結成
ソレイユの活動の原点となったのは2011年、熊本大学の技術職員として働く須惠耕二<すえこうじ>氏の活動でした。
東日本大震災を機に「自分の技術は、本当に世の中の役に立っているのか」と須惠氏が自問自答する中、他の大学の技術職員が視覚障がい者向けの教材を開発していることに衝撃を受け、「私の持っている技術で何か手伝わせてほしい」と地元の熊本県立盲学校に電話をかけたことが始まりです。
現場の教員たちが、寝る間を惜しんで市販の材料などから教材を手作りしたり、壊れかけた古い機械を何とか動かしていたりと、目の見えない子どもたちの教育を必死に支えていることを知りました。そんな中、点字を正しく習得するためのパソコンにつなげて使う点字タイプライターが故障していることを聞いた須惠氏は、「技術屋の出番だ」と支援に乗り出しました。須惠氏は、壊れていた部品を盲学校から預かり、他の職員とともに再設計。新たな部品を組み合わせて、パソコンにつなげなくても、「あ」という点字をキー入力すると、「あ」という音声を出すだけでなく、それを録音・再生して内容確認できる機能を備えたものにしました。一般的な点字タイプライターは、文字を入力しても、キーの操作音のみで、文字の読み上げや、その録音・再生機能まではありません。
こうして完成した「おしゃべり点字タイプ」を盲学校に寄贈すると、とても喜ばれ、須惠氏は全国の盲学校へ教材を届けていくことになりました。
このおしゃべり点字タイプで学習する全盲の児童は、「楽しく点字を勉強できる」と笑顔で話し、「先生、ありがとう」などと入力しては、録音し再生して楽しんでいます。教員は「この音声が出る点字タイプライターがあれば、児童生徒自身が考えながら入力した文字が、そのまま音として聞けます。また、録音を聞くことで、入力の間違いにも気が付けます。この『能動的な学び』こそが、児童生徒自身の自信につながり、何よりの成長になっています」と、教育の効果の大きさを語ります。
こうした須惠氏の作業を手伝っていた学生が、視覚障がいの子どもたちの喜ぶ姿に感動。そこで翌12年に主体的に立ち上げたのが、「ソレイユ」でした。
「ソレイユ」はフランス語で「太陽」の意味。目の見えない人たちの光となる存在になりたいとの学生の願いが込められています。学生たちは、須惠氏とともに、盲学校の児童生徒や教員にニーズを聞き取り、教材の新開発をするなど、さまざまな活動を展開していきます。
これまでに製作したオリジナル教材は約250個に及びます。今いる場所の気温や湿度を音声で教えてくれる「大気くん」など多彩で、全国の盲学校へと寄贈されました。
■サークル卒業生と市民がNPOで活動
ソレイユの活動が10年を越え、新たな動きも始まっています。サークルの卒業生らの「引き続き、目が見えない子どもたちの力になりたい」との思いを受け、須惠氏は22年にNPO法人「テクたまご」を設立しました。テクたまごでは、卒業生が開発を行い、市民ボランティアを募集して、視覚障がい者向けの教材作りに取り組んでいます。テクたまごの活動への共感が高校の教育現場にも波及し、工業高校の生徒が授業の一環で、教材の基板のハンダ付けを行い、別の高校の生徒が外箱を製作して、市民ボランティアが仕上げに組み上げたこともあります。
「みんなで考えつくって贈る」。須惠氏が掲げた旗印に集まった学生たちのサークル。その善意の〝太陽〟が、視覚障がいのある子どもたちの学びを照らし、広がりをみせています。
