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点字こうめい No.90

<人間登場>
一歩踏み出す勇気を与えられる存在になりたい
全盲のeスポーツプレイヤー
江頭実里(えがしら・みさと)さん


 「自分が頑張る姿や楽しく生きている姿を見てもらうことで、他の人の希望や目標に少しでもなれたらいいなと思っています。一歩踏み出すための勇気を与えられる存在になりたい」。こう語るのは、対戦型コンピューターゲームを“スポーツ競技”と捉え、その腕前を競う「eスポーツ」のプレイヤーである江頭実里さんです。  江頭さんは、障がい者が自分らしく、やりがいを持って社会参加することを支援する企業「ePARA<イーパラ>」に勤めています。ePARAは、「年齢・性別・時間・場所・障害の有無を問わず参加できる環境の下で行われる『バリアフリーeスポーツ』の企画・運営・支援」などを手掛けており、江頭さんは、バリアフリーeスポーツのイベントや体験会での実演を行うだけでなく、会社の議事録作成やSNS運用などにも携<たずさ>わっています。

 江頭さんは生まれつき、網膜剝離<もうまくはくり>や白内障を患<わずら>っており、右目はわずかに見えていましたが、左目は見えない状態でした。高校3年生の時には、進行性の別の病気に罹患<りかん>し、手術を受けましたが、残念ながら、視力を失いました。江頭さんは、「手術のリスクについて、前もって言われていたので、思ったよりショックはありませんでした。むしろ大学への進学も決まっていたので、今後の生活をどうしようかと考えていました」と振り返ります。

 eスポーツと出合ったのは大学4年生の時。大学では心理士をめざして心理学を学んでいましたが、全盲になったこともあり、断念。そんな時に、全盲の友人が「eスポーツプレイヤーとして活動している」との話を聞きました。全盲の人が健常者と一緒にゲームを楽しんでいることに深く興味を持ったと同時に、eスポーツを通して、障がい者の就労支援や社会との接点づくりに取り組んでいるePARAの活動に心を引かれました。
 「そこで働きたい」と思った江頭さんは、ePARAが開催していたイベントに参加。イベントでは、障がい者と健常者が、ゲームを楽しんでいるだけでなく、ゲームを通じて夢を見つけた人や、かなえたい夢がある人など、さまざまな人たちと交流していることに感動しました。江頭さんは「私でも支援する側になれるかもしれない」との気持ちがさらに強くなり、就職活動の末、無事にePARAへの入社が決まりました。

 入社後に開かれたイベントで、eスポーツの実演や解説を任された江頭さん。アイマスクとヘッドホンを着け、人気格闘ゲーム「ストリートファイター6(スト6<シックス>)」で対戦プレーをしました。スト6は、目が見えなくても、さまざまな音の支援で対戦を可能とする「サウンドアクセシビリティ」機能が拡充されています。
 例えば、相手キャラクターとの距離が近くなると「ピッピッピッ」という音が高くなり、離れると低くなります。また、相手キャラクターがジャンプで乗り越えて左右の位置が逆転すると、「ピッピッピッ」という音が「ポンポンポン」という音に変わります。他にも、上・中・下段への攻撃を知らせたり、体力の残量などを知らせたりする音も調整できます。
 江頭さんは、「BGMをオフにする人もいます。私は環境音が分かった方がやりやすいです。自分に合った音の調整ができるようになっています」と機能の使い方を解説します。

 「格闘ゲームにサウンドアクセシビリティ機能を搭載<とうさい>したのは、日本のゲームにとって、大きな一歩だと思います。この機能を備えたゲームが増えれば、障がいがあっても楽しめる人が増えると思います。ePARAでの活動を通して、バリアフリーeスポーツを広めていきたい」と語る、江頭さんの今後の活躍に期待が高まります。