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点字こうめい No.90

<特集2>
「したたかな創造力」「しなやかな発想力」備えた点字
国立民族学博物館 人類基礎理論研究部
広瀬浩二郎<ひろせ・こうじろう>教授


Q 近年の点字文化を取り巻く環境をどう見ますか。
A 今年は点字の考案から200年の節目ですが、ニュースでもあまり取り上げられておらず、世間の関心は、それほどではありません。理由はさまざま考えられ、点字を使っている視覚障がい者数が減少していることも大きな理由の一つです。ICT(情報通信技術)が発達し、パソコンやスマートフォンの音声認識機能を利用すれば、視覚障がい者が点字を使ったり、覚えなくても日常生活を送れるようになっているからです。
 ただ、点字には、デジタルにない強みがあることを忘れてはいけません。音読してくれるオーディオブック「耳で聞く本」が流行っていますが、これは一定の速度で聞いていると、ラジオを聞く感覚になってしまい、聞き逃してしまうことがあります。点字の場合、読むペースを自分で決められる上に、自分の好きな場所で止めたり、戻ったりすることができます。じっくり読みたい本や専門書を耳で聞くよりも、点字で読む方が記憶に残りやすいと考えられます。

Q 点字を文化論的にどう捉えていますか。
A 点字には、「したたかな創造力」と「しなやかな発想力」があると感じています。
 まず「したたかな創造力」については、点字は6点という、本当に少ない材料を絞り込むことで多くを表現できる創造力があります。つまり、日本語や英語、中国語、さらには音楽の楽譜や理科の記号までも表す力があることです。
 もう一つの「しなやかな発想力」についてです。歴史を振り返ると、点字ができる前は、アルファベットや漢字などを浮き上がらせた〝線の文字〟を活用していましたが、それをルイ・ブライユが六つの点で表すようになったことで、〝線の文字〟から〝点の文字〟に変わって今に至っています。今まで使っていた文字から〝一歩踏み出す〟、常識にとらわれない柔軟な発想力が、点字に見られます。
 こうした創造力や発想力を踏まえ、点字というものの素晴らしさを、われわれ当事者が自覚して使い続けるとともに、健常者のマジョリティー(多数派)の世界にどう伝えていくかが、重要ではないでしょうか。

Q 点字文化の衰退を防ぐために必要なことは。
A 一つは、点字図書館が閉館しないよう、保護していくことです。視覚障がい者の高齢化や、音声認識機能の発達で、点字図書館の利用者は減少してきています。利用者を増やす工夫が必要です。例えば、視覚障がい者に物に触れてもらう機会を増やそうと、近年、日本点字図書館が「ふれる博物館」などのイベントを開催しています。これは健常者も入館したくなるイベントです。視覚障がい者、マイノリティー(少数派)の人のための点字図書館だけでなく、マジョリティーの人も行きやすい点字図書館を運営できるよう、保護していくべきだと思います。
 また、点字を〝文化〟に位置付け、点字新聞を作成する企業・団体に補助金を出すなど、支援していくことが大事になります。こういったマイノリティーの声を、国会でも議論してほしい。
 「福祉の党」の公明党には、特に社会的弱者の声を、もっと拾って施策に反映してほしいと期待しています。