北海道函館市内を走る路面電車・函館市電(市企業局交通部)は、交通系ICカードで運賃を支払う際の読み取り端末(カードリーダー)の位置を視覚障がい者に分かりやすく伝えるための音声案内装置をこのほど開発・導入し、注目を集めています。
函館市電の乗降は、車両中央のドアから乗り、前方のドアから降りる方式です。Suica(スイカ)などの全国で相互利用できるICカードで支払う際は、乗車と降車の2回、端末にタッチします。
昨年末から試験導入された音声案内装置は、中央のドアのカード読み取り端末のすぐ下に設置。ドアの赤外線センサーが人を感知すると「ICカードはこちら」という音声が流れます。音声案内装置の経費は、1台当たり26万〜50万円程度です。
音声装置の導入は、乗車時にカードをタッチする場所が分からず戸惑う視覚障がいのある乗客を、職員が目にしたことがきっかけでした。市企業局交通部の廣瀬弘司<ひろせこうじ>次長は、カードリーダーの位置が分からず困っている視覚障がい者をよく見かけたと言います。市内の函館視力障害センターの最寄り駅が沿線にあり、多くの視覚障がい者が市電を利用しています。一方で、市電はワンマン電車のため、運転士は降車時しかカードリーダーの位置を視覚障がい者に案内することができない実情がありました。
廣瀬次長は、「何か方法はないか」と考え、市電車両の自動ドアを製造する機器メーカーに相談。一般的に導入されている読み取り端末は、音声案内装置を備える仕様になっていませんでしたが、メーカーから扉の赤外線センサーからの信号を活用した機器が提案され、以後、共同で開発を進めてきました。
音声案内装置の特徴として、車内では行き先案内など多くのアナウンスが流れるため、音声が紛れないように乗車時のみに音声が流れるように工夫されています。また、函館視覚障害者福祉協議会などの当事者らの協力のもと、文言や音の大きさ・速度なども確認してもらい、「音声は短く」などの助言も得て、今年7月からの本格導入にこぎ着けました。導入後、利用した視覚障がい者から「端末の位置が分かりやすくなった」などの喜びの声が広がっています。
音声案内装置は、今年7月には正式に「商品」としても認可されました。広島電鉄の市バスでも今後試験導入が予定されており、全国的に広がる可能性を秘めています。 同市電も、今年度中に導入車を1車両増やす予定(保有30車両中2車両)。順次拡大をめざしています。
廣瀬次長は、「函館市電から(音声案内装置が)全国へと広がれば」と期待を寄せるとともに、「今後も利用者の声に応えて、快適な乗車環境を提供していきたい」と抱負を話しています。