天野和彦<あまの・かずひこ>准教授
Q 視覚障がい者がスポーツに参加する意義や重要性とは
スポーツの意義・重要性については、健常者も障がい者も全て同じであると考えます。健康の維持・増進のほか、ストレスが発散でき、爽快感も得られるなど、身体的・精神的な効果が得られるのはもちろん、他者との社会的なつながりが構築されるメリットは大きいと言えます。障がい者の社会参加や共生社会構築の推進にとっても、大きな役割を果たせるものと考えています。
Q 視覚障がい者がスポーツに参加しやすくなるために必要なことは
まず、視覚障がい者がスポーツするためには、移動手段やサポートしてくれる人員の確保はとても重要になります。視覚障がい者は、日常生活で移動に大きな困難を伴うことが多いことから、この点に関する配慮は大切です。加えて、マラソンにおける伴走者のように、スポーツする際の支援者についても考慮することが必要です。
次に、参加を希望している人のスポーツに関する知識や経験の個人差を考えることも重要です。例えば、それまでのスポーツ経験や見えていたことがあれば、その頃の記憶などから「どんなスポーツなのか?」と、ある程度イメージの湧く人がいらっしゃる一方、そもそもスポーツというものが身近な存在ではなかった人もいらっしゃいます。まずは「スポーツとは何か?」「どういうスポーツを知っているか、知らないか、経験しているか」などを一緒に整理しながら、スポーツへの参加や実施を進めていくことがよいのではないでしょうか。
さらにスポーツ以外にも言えることですが、健常者は障がい者に対して、健常者が考える善意から「これはできない」と一方的に決め付けてしまい、障がい者のできることを除いたり、先回りして代わりにやってしまうことがしばしばあります。これでは障がい者は、「できる・できない」以前に、参加や実施の機会そのものを失ってしまうことにつながります。スポーツにおいても、健常者は障がい者に対して「できること、できないこと」を健常者目線で一方的に決めず、障がい者と一緒に「このスポーツはできる」「このスポーツは難しい」など、「できること」「難しいこと」「必要な工夫やサポート」などを話し合いながら、選択肢の幅を広げていくことがスポーツ参加を促すことにつながると思います。
これ以外にも、スポーツの目的やゴールは人それぞれです。ランニングといっても、その内容やレベルはたくさんあり、マラソン大会をめざして走る人もいれば、仲間とおしゃべりしながらジョギングやウオーキングしたい人もいます。健常者同様、障がい者のスポーツ参加にも等しく言えることで、「どういうスポーツがしたいのか」について、ご本人の希望を第一にした上で、共に考えながら進めていくことでも、さらなるスポーツ参加の背中を押すことにつながるのではないでしょうか。
Q 障がい者スポーツに参加する健常者を増やすためには
障がい者スポーツに参加する健常者を増やしていくために大切だと思われることは、先の項目で述べたことと同じです。つまり、健常者においても、障がい者スポーツを知っている人、体験する人を増やしていくことが時間はかかっても着実に結果につながるものと考えます。
わが国の大きな動きとして、1961年にスポーツ振興法が施行され、2011年にスポーツ基本法へと全面改正されました。改正によって、スポーツ基本法の中に「スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない」と「障害者(障がい者)」が明記され、加えて、改正を契機に、スポーツ関連施策の取りまとめ役としてスポーツ庁ができたこともあり、障がい者がスポーツに参加する環境が一層推進されることとなりました。このような変遷の中で、最近では、パラリンピックをはじめとして、障がい者スポーツを目にする機会も増えてきました。
また、個人的な見方になってしまいますが、障がい者スポーツ推進にもメディアの力は大きく、例えば、21年の東京オリンピック・パラリンピックで、障がい者スポーツにもより大きくスポットが当たり始め、以前にも増して、健常者も障がい者スポーツへの参加や観戦をするようになってきたと感じています。こうした社会の動きやメディアの力の後押しも受けながら、障がい者も健常者も関係なく、障がい者スポーツに興味・関心を持つ人、参加する人が増えてくれることを期待しています。