2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックを機に、障がい者と健常者がともに楽しめるスポーツが話題を集めています。その中の1つであるブラインドマラソンは、視覚に障がいがある人とガイドランナーの健常者が、「きずな」と呼ばれるロープを持ちながら、走破するスポーツです。ガイドランナーが道路状況や周囲の安全などに目を配り、視覚障がい者のランナーに声を掛けて走り、ゴールをめざします。今回は、運動したい視覚障がい者と健常者をつなぐブラインドマラソンの団体と、障がい者スポーツに詳しい識者を訪ねました。
■運動不足な視覚障がい者と運動したい健常者をマッチング
猛暑が過ぎ、運動しやすい気候になった10月の朝、福岡市内にある大濠<おおほり>公園には、視覚障がい者と健常者らが集まって、ブラインドマラソンの練習会を開催していました。福岡県内で活動する「大濠公園ブラインドランナーズクラブ」は2007年から、運動不足を解消したい視覚障がい者と、体を動かしたい健常者をつなぐ活動をしています。
大濠公園ブラインドランナーズクラブは月に2回ほど、福岡市中央区と福岡県春日市内にある公園で活動しています。この日の練習会には、県内外から16人の視覚障がい者らと、32人の健常者が大濠公園に集いました。練習会前には、大濠公園ブラインドランナーズクラブの会員であり、今年行われたパリオリンピック・パラリンピックの陸上女子マラソン(視覚障害T12)で、熱戦を繰り広げて銅メダルを獲得した道下美里<みちした・みさと>選手も顔を出し、参加者からは大きな歓声が沸いていました。
今回の練習会場である大濠公園内には、1周約2キロある大きな池があります。その池の周辺は、犬やベビーカーなどを連れて散策する人向けのレーンと、ランニングする人のレーンの2つが設けられているため、高齢者や視覚障がい者でも走りやすく整備されています。
1年前から大濠公園ブラインドランナーズクラブに参加している、視覚障がいのある70代男性は「目が見えていた頃は、登山などが趣味でしたが、数年前から病気でだんだん目が見えなくなりました。前が見えないから怖くて、最初は運動しようと思っても勇気が必要でした」と振り返ります。さらに、「大濠公園ブラインドランナーズクラブのように、健常者が何人も付き添って走り、サポートされながら運動できる機会があると、とてもありがたい」と笑顔で話していました。また、自宅から練習会に付き添って来た男性の妻は、「夫が中途視覚障がい者になった当初は家にこもりがちでしたが、大濠公園ブラインドランナーズクラブのおかげで積極的に外出するようになりました。最近だと、おなか周りが少し痩せたように見えます」と笑みをこぼします。
この日初めて参加した健常者の20代の女性は、大濠公園ブラインドランナーズクラブで長年活動している先輩から「視覚障がい者が走っている状況や感覚を知ろう」とのアドバイスを受けて、アイマスクをつけて走ることに。走り終えた女性は、「大濠公園は何度も来ているので道の感覚は知っていますが、アイマスクをつけて歩いた途端、とても怖かった。ガイドランナーを務めた先輩が段差や坂道があることを教えてくださり、安心して1周走ることができました」と語り、その後は、視覚障がい者に対して丁寧に声をかけながら、一緒に走っていました。
また、聴覚障がいと視覚障がいのある50代男性は、「目が見えていなくとも、運動するのは好きだから、頑張って福岡市外から参加しています。目が見えていた頃は走れていたものの、見えなくなってからは耳も聞こえないため、運動するのに勇気が要<い>ります。今は膝が悪く、1周歩くのにも精いっぱいですが、みんなとまた走れるように少しでも運動して体の調子を整えていきたい」と、力を込めていました。
大濠公園ブラインドランナーズクラブは、ユニバーサル都市をめざす福岡市と連携して、毎年11月に開催予定の福岡マラソンにも積極的に参加。大濠公園ブラインドランナーズクラブの代表で、自身も視覚障がい者である松永由美<まつなが・ゆみ>さんは「市民マラソンの場合、多くの人が参加するため、他のランナーとも接触するなど危ない面も多い上に、ガイドが1人走ることしかできませんでしたが、今ではガイドを3人まで付けて走れるようになりました」と説明。さらに福岡市とともに障がい者スポーツを盛り上げていることを強調した上で、「大濠公園ブラインドランナーズクラブに入った約10年前は、運動不足だったためか1周すらまともに走れませんでした。運動する機会が増えて体が強くなり、今ではフルマラソンも何度か走れるようになりました」と、運動できることの素晴らしさを話していました。