埼玉県立大学 朝日雅也<あさひ・まさや>名誉教授
障がいのある人にとって働きがいのある就労環境を広げていくためには何が必要か。障がい者雇用の問題に詳しい埼玉県立大学の朝日雅也名誉教授に聞きました。
Q 障がい者雇用の現状をどう見ますか。
視覚障がいをはじめ企業で働く障がいのある人は、昨年6月時点で61万人を超えました。就労数は年々、増加傾向にあり、コロナ禍や厳しい経済状況の中でも障がい者雇用は確実に進展していると思います。
大きな要因の一つは、大企業の雇用が進んだことです。40年ほど前までは、障がい者雇用の中核的な担い手は中小・零細企業で、大企業はどちらかというと後ろ向きな印象がありました。その後、企業の社会的責任という観点から障がい者雇用への理解は大きく進み、従業員1000人以上の企業における雇用率は、現在、平均2.48%に上っています。これは、障害者雇用促進法に基づく法定雇用率(2.3%)を上回る水準です。
一方、企業側は法定雇用率の達成をめざす中で、どうしても数の理論にとらわれがちですが、これからは〝雇用の質〟を高め、障がいのある人にとって働きがいのある就労機会を確保・拡充していくことが重要です。
Q 雇用の質を高めていくためには。
その原動力こそが、職場における「合理的配慮」です。障がい者を雇用する際、企業には一人一人に対して合理的配慮を提供することが法律で義務付けられていますが、この概念について日本社会ではまだ十分に理解されていません。
合理的配慮とは「平等」を基礎とし、障がいのある人が、障がいのない人と同じように、職場で自分の能力を発揮していくために必要な配慮のことです。
従業員に力を発揮してほしいという企業側の思いと、障がいがあっても自分の力を生かして会社に貢献したいという当事者の気持ち。両者をつなぐ支援者の存在。これら3者が、しっかりと連携し、合理性のある議論をたどる中で、必要な配慮の形が見えてくるはずです。
Q 企業側の視点で参考になるエピソードは。
私が以前、出会った山口県内にある特例子会社の社長は、「うちは2人で2人前の採用をしています」と話していました。1人で1人前の仕事をすることは難しくても、2人で協力し、互いの弱点を補い合いながら長所を生かして働くことで、2人2人前、つまり1人で1人前のパフォーマンスを発揮できるというのです。その社長は、働く人同士の組み合わせなど職場の環境づくりを工夫することで、障がいを強みに転換して働けることを教えてくれました。
視覚障がいのある人が活躍する職場の好事例として、資生堂ジャパン株式会社の取り組みが広く知られています。同社では視覚障がい者の、相手の思いをくみ取る傾聴力が高く、言葉によるコミュニケーションが得意であるという強みに着目し、電話による販売店へのセールスといった通信営業の分野で力を発揮しているとのことです。
Q 働きがいのある就労をさらに広げていくためには。
企業だけで抱え込まないことが大切です。全国に337カ所設置されている「障害者就業・生活支援センター」をはじめ、各地の支援機関に相談してほしいと思います。
さらには、埼玉県には雇用開拓から職場への定着まで、企業の障がい者雇用を一貫して支援する「障害者雇用総合サポートセンター」という独自の仕組みがあります。こうした企業支援の仕組みづくりが、全国で進むことを願っています。