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点字こうめい No.85

<話題>
点字投票の裾野広がる/約70年ぶりに使用文字の一覧表を更新


 目の不自由な人が点字器を使い、専用の投票用紙に政党名や候補者名を打ち込んで行う点字投票。今年4月、点字投票で使用できる文字の一覧表が約70年ぶりに更新され、新たにアルファベットや外国語表記で用いるカタカナが加わりました。これは、近年増えている日本に帰化した外国出身の候補者や、政党名にアルファベットなどを使うケースに対応するもので、利用する視覚障がい者からは、歓迎の声が上がっています。

 点字投票の導入は、1920年代にさかのぼります。納税者に限られていた当時の選挙権の拡大を求め、各地で盛んなデモが行われた傍<かたわ>らで、これにも負けない熱量を帯びたのが、点字投票の有効運動でした。愛知出身の運動家で、自身も目が不自由だった長崎照義<ながさき・てるよし>さんを中心とした視覚障がい者たちが、大規模集会を開催したり、点字投票有効を求める請願書を国会に提出するなど活発な運動を展開。「憲政の神様」として知られる政治家・尾崎行雄<おざき・ゆきお>に対しても、実現を直談判したというエピソードも残っています。

 こうした熱意に後押しされ、1925年の普通選挙法の公布によって点字投票が実現。点字投票は、日本が世界で初めて国政選挙に導入したといわれており、初めて実施された28年の衆院選では、約5400の点字投票の利用がありました。

 点字投票で使える文字は、公職選挙法施行令の一覧表に記載されています。50年に作成された一覧表には、ひらがなの五十音に加え、「きゃ」「きゅ」「きょ」「じゃ」「じゅ」「じょ」などはあったものの、外国語でよく使う発音に対応する文字のアルファベットやカタカナはありませんでした。このため、例えば、これまで点字投票では、「ヴィ」を「び」とするなど、日本語読みで表記してきました。今回の更新により、アルファベットのほか、「ヴィ」「ウェ」などの外国語の発音にも対応できるようになったのです。

 今回の更新を受け、日本点字図書館の長岡英司<ながおか・ひでじ>理事長は、「現状に合った適切な対応だ」と評価する一方で、点字投票制度そのものがまだ知られていないと指摘します。その上で「点字器を用意している投票所があることや、投票所係員による代理投票なども進んでいることを踏まえ、(視覚障がい者に対して)さらなる制度の周知が必要だ」と語ります。

 日本盲人福祉委員会の指田忠司<さしだ・ちゅうじ>常務理事、日本視覚障害者団体連合の渡辺昭一<わたなべ・しょういち>情報ステーション長も制度の改善が進んでいることを歓迎。ただ、候補者の経歴や政見を掲載している選挙公報の課題として、公職選挙法には点字や音声の公報に関する規定がなく、点字版が発行されていない点を挙げます。「視覚障がい者にも等しく情報が行き渡るような対策を、さらに進めてほしい」と話していました。

 当事者の多様な声を政治に届けていくため、一層の環境改善が求められます。