中島諒人<なかしま・まこと>
いわゆる健常の人が、障がいのある人を見たとき、不自由さが先に目に入り、その人固有の内側の豊かさを知るのに時間がかかる。鳥の劇場のプロジェクト「じゆう劇場」では、さまざまな障がいのある人、障がいのない人が一緒に舞台に立ち、鳥の劇場のプロ俳優と共に舞台作品を作る。8年ほど前から継続している。
人間にとって最も大切なものは「じゆう」。舞台では何にでもなれるし、どんなこともできる。表現活動を通じて自由を楽しみ、観客にはその姿を通じて人の内面の多様な豊かさを知ってもらう。視覚障がいのある人も、これまでに3人参加してくれた。
舞台芸術の特徴は、演じる人が抱くイメージを観客も共有することで、見えないものを想像させることだ。コンピューター技術を使って、どんなものでも可視化してしまう最近の映像表現とは、その点が異なる。
じゆう劇場の最近の創作はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を翻案<ほんあん>したもので、二つのコンビニチェーンの争い、その経営者の息子と娘の恋のてんまつを描いた。コンビニ店内、教会、街中など次々と多くの場面が展開するが、最小限のセットの変化のみで場面を展開する。それが可能となるのは、演劇が観客の想像力を刺激し、見えないもの、聞こえない声や音を聞かせているから。想像力は障がいにしばられない。そして劇場という生身の出会いの場は、「人間の体の中で起こっていること=想像や願いや思い」を観客に感じさせる。
鳥の劇場では毎年9月の三週末を中心に国際演劇祭を開催している。15回目の今年は、3年ぶりに海外劇団を招いた。アメリカのオフブロードウェーを中心に活動するTBTB(Theater Breaking Through Barriers 障がいを越えていく劇団)がそれ。もともとは視覚障がいの人の劇団だったが、現在は多様な障がいのある俳優が参加している。
ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの生涯を主題とした『ブレヒト・オン・ブレヒト』という今回の作品では、視覚障がいのある俳優が2人含まれていた。視界の真ん中が見えないパメラ・サボーさんと弱視のブリー・クラウザーさん。他の俳優(肢体<したい>不自由や聴覚障がいなどがある)との完璧な連携を通じて、素晴らしい才能を見せてくれた。
観客に新鮮だったのは、上演のはじめに視覚障がいの人のために、俳優が自分の特徴を語ったこと。身長の高さ、肌や髪の色、衣装などを自己紹介した。「自分の声で」ということに大きなポイントがあると、TBTB芸術監督のニコラス・ヴィセリさんが説明してくれた。視覚障がいのある観客にとって「声」は最重要の情報源で、声と「役」や「外見」を結びつけることで、芝居の理解がしやすくなる。
TBTBは、アメリカで上演する時も英語の字幕を提供している。聴覚に障がいのある観客のためだ。鳥の劇場でも、日本語字幕の提供を行っている。この継続を通じて、実は聴覚障がいだけでなく、発達障がいの人の中にも字幕を必要とする人があることが分かった。舞台は情報が多いので、セリフに集中できないことがあり、字幕が全体理解の大きな助けになるとのことだった。
「障がい」というテーマは、劇場でもっと扱われなければならない。多くの障がいのある人が劇場に足を運びやすい環境の整備も必要だ。それは障がい当事者だけのためではない。皆が共に助け合い、それぞれの人間的豊かさを認め合って生きる社会は、多くの人を幸せにする。それは今日の世界共通のテーマでありつつ、厳しい自然との関わりの中で支え合い生きてきたヒトのDNAに刻まれた深い喜びでもある。