「シネマ・チュプキ・タバタ」
障がいの有無に関わらず、誰もが映画を楽しめる国内唯一のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」(東京都北区)が、先ごろ開館5周年を迎えました。障がい者が楽しめるだけでなく、映画関係者や一般のファンの間でも共感や支援の輪が広がる同シアターを訪ねました。
2016年にオープンした「チュプキ」は、目や耳の不自由な人、車いす利用者、赤ちゃん連れのお母さんなど、あらゆる人が気兼ねすることなく、一般の観客と一緒に映画を楽しめる、国内で唯一の常設の映画館です。「チュプキ」とは、『木漏れ日』など自然の光を意味するアイヌ語が由来となっています。創設者であり、運営を切り盛りするのは、現在、「チュプキ」の代表を務める平塚千穂子<ひらつか・ちほこ>さんです。平塚さんは、視覚障がい者の隣に座って映画の場面を言葉で説明するボランティア活動に長く励み、2001年4月に映画の音声ガイドを制作する団体「シティ・ライツ」を設立。上映会を開くなど、普及活動に努めてきました。
「外国の映画館では、当たり前のように音声ガイドや字幕付きで上映されているのに、日本にないのはなぜ?」。そんな思いを抱いてきた平塚さんは、「ないならば自分で作ろう」と、設立資金などをクラウドファンディングなどで募<つの>ったところ、わずか3カ月で500人以上が賛同し、常設の劇場という夢を実現しました。
「チュプキ」の館内は、全20席。一般席15席と5席分の車いす用スペースのほか、ベビーカー1台と母親が入れる防音完備の親子鑑賞ブースも設置されています。新旧の作品を合わせて1日4、5本上映。視覚障がい者向けに全作品で登場人物の動きや情景を説明する「音声ガイド」を聞けるようにし、耳が不自由な人のために邦画も字幕付きです。
こうした取り組みは障がい者だけでなく、一般の観客にも喜ばれます。「(登場人物のせりふが)早口で聞き取りにくかったので、字幕があって助かった」「ガイドがあることで、ストーリーをより理解することができた」など、感想が寄せられていると言います。平塚さんは「障がい者のためという入り口で始めたが、字幕・音声ツールを取り入れると、一般の人たちの鑑賞にも深みが増すことに気付かされました」と、手応えを語ります。
平塚さんは、コロナ禍<か>でリアルな出会いが減っている今だからこそ、映画館の存在意義は大きいと訴えます。「同じタイミングで笑ったり、驚いたりできる喜びを分かち合い、会場の空気を皆で共有できるのが映画館。動画配信サービスにはない魅力があります。こういう時だからこそ、地域の交流の場所にしていきたい」と熱く語ります。
「チュプキ」ではこのほど、ユニバーサルシアターとしての運営だけでなく、初めて作品の製作にも着手。演劇を聴覚障がい者にも楽しんでもらうために『舞台手話通訳』に挑む人々のドキュメンタリーに、さらに視覚障がい者のために音声ガイド化するプロジェクトも記録した作品「こころの通訳者たち What a wonderful world<ワッツ・ア・ワンダフル・ワールド>」を完成させました。平塚さんは、「今年秋の全国公開をめざして、今、準備を進めています。多くの人たちに関わってもらってできた珠玉の作品なので、ぜひ多くの人に観てもらいたい」と意気軒高です。