――視覚障がい者が道路を安全に横断するために必要なことは。
稲垣具志准教授 視覚障がい者が屋外で単独歩行する際に大きな課題となるのが交差点の横断です。安全に横断するには、①横断を開始する場所②横断中の現在地③横断を終える場所――の三つを知るのが必要ですが、視覚障がい者はそれを把握することが難しいため、正しい横断方向のほか、横断のタイミングも分かるように支援することが大切です。
――夜間など音響信号機が鳴らない時間帯に視覚障がい者の死亡事故が発生する問題も指摘されています。
稲垣 改善策としては、まず鳴らない時間を少しでも減らしていけるよう、視覚障がい者の状況を地域住民に理解してもらうことが重要です。その上で、音量を調節したり、横断歩道の入り口だけに音を届ける指向性<しこうせい>スピーカーを活用する方法もあるでしょう。
また、視覚障がい者に対し情報が適切に提供されているのかどうか。例えば、警視庁のホームページ上には音響式信号機が設置されている住所一覧が公開されていますが、住所だけでは分かりづらい。ウェブ上のマップに音響式信号機の位置情報を掲載したり、移動の際に障壁<しょうへき>となりそうな箇所<かしょ>を避けることができるようにするなど、安全に単独歩行できるルートナビゲーションシステムの構築も必要ではないでしょうか。
トイレや階段などの場所では視覚障がい者を案内するために、さまざまな誘導音が鳴っています。しかし、過剰<かじょう>な情報提供は、逆に分かりにくさにもつながります。視覚障がい者の立場に立った支援のあり方を再検討してもらいたいと思います。
――スマホアプリによる新たな取り組みについて。
稲垣 視覚障がい者のために、新しい技術が開発されていますが、ロービジョン(弱視)や全盲など多様な症状がある中、「これ一つで視覚障がい者全員の課題が解決される」というものはありません。さまざまな角度から情報提供し、彼らの安全を守っていくべきです。
一方、彼らへの人的サポートがもっとあってもいいのではないかと考えます。駅ホームからの転落事故などが問題化している中、最近は駅での声掛けを一般乗客にも求めるアナウンスが流れるなど、意識が高くなっています。しかし、路上でのサポートはそれほど一般的ではありません。視覚障がい者にとっては「今、信号が青になりましたよ」と隣の人から一声掛けてもらうだけでもずいぶんと助かります。
――視覚障がい者が安全に歩行する上で必要な施策は。
稲垣 私は視覚障がい者が横断する方向が分かるよう、横断歩道の出入り口にある点状ブロックの手前に設置する新たな「方向定位<ほうこうていい>ブロック」というものを提案しています。2021年度に東京都国分寺市に設置予定ですが、全盲の人が単独歩行時に正しい横断方向を確実に知ることができるほか、夜間に光らせることでロービジョンの人や高齢者など、多くの人の助けになると考えています。
視覚障がい者の安全を守るために必要な施策は全てやることが理想ですが、限られた予算の中では現実的ではありません。近年進みつつある交差点や生活道路の安全対策の一環として、多くの人のためになり、視覚障がい者にも活用できる施策を実行することが、今考えられるベストな支援策ではないでしょうか。