『♪たった一度の人生 不可能などあり得ない 前例がないのなら第一号になろう』――。前向きな思いや言葉がストレートに込められた楽曲を数多く制作し、聞く人たちに元気を届けるのは、全盲のシンガー・ソングライターとして活躍する大山桂司さんです。地元・熊本県の福祉施設などを中心にライブ活動を行い、ギター1本を握りしめながら、自ら作詞・作曲したオリジナル曲やカバー曲を軽快に歌い上げます。
大山さんは、1992年生まれの熊本市出身。「レーベル黒内症」という先天性の視力障がいで、生まれつき目が見えません。音楽を始めたきっかけは、小学校3年生の時。「『リズム感が身に付くから』と、学校の先生や母親の勧めで、ドラムを習うようになりました。その時、一緒にギターも始めて、音楽に夢中になったことを覚えています」と振り返ります。一方で、体を動かすことが大好きだった大山少年は、同じ時期から柔道も始めました。
中学校へ入学して以降は、柔道一直線で心身を鍛え続けた大山さん。元来の負けん気と熱心に稽古に打ち込み、県立盲学校高等部時代には視覚障がい者の国際大会で活躍するまでに。熊本学園大学の3年時には、米国で開かれた「IBSAユース世界大会」で金メダルを獲得しました。
柔道で目覚ましい活躍をするかたわら、大山さんは趣味の音楽活動にも力を入れて取り組みました。学生時代から曲を自分で作るようになり、CDを自主制作したり、商店街の路上でギターの弾き語りも行いました。「柔道の厳しい稽古がある中で、心が一番安らぐのは音楽に触れている時間でした。自分の将来を真剣に考えた時、自分らしくいられる音楽の道で頑張ろうと思ったのです」。そして大学卒業後は、音楽活動を本格的に開始しました。
大山さんの楽曲は、悲しみの中にある人や頑張っている人を励ます「応援歌」が多いのが特徴です。東日本大震災や熊本地震の際は、復興への応援ソングを制作し、被災地まで足を運んでミニライブなども開催。また、知的障がい者による世界のスポーツの祭典「スペシャルオリンピックス」に出場する選手たちへの応援歌も手がけるなど、人を元気づける楽曲が並びます。「ずっと柔道をやってきて、家族や周りの人に応援されるということが多い環境で育ってきたし、僕自身も誰かを応援するという習慣が身に付いている。そうした経験からか、誰かを応援したいと思った時に、自然と言葉が出てきて、メロディーが浮かんでくるんです」と語ります。大山さんはこれらの楽曲を、高齢者施設や講演会、路上ライブなどで積極的に披露するほか、インターネット上の動画サイトにも配信しています。
大山さんは音楽活動だけでなく、障がい者が暮らしやすい街づくりに貢献したいとの思いを強く持っています。例えば、視覚障がい者が駅のホームから転落する事故が相次いでいることを受け、大山さんは今年2月、地元の鉄道会社に提案し、鉄道職員の協力のもと、視覚障がい者のホーム転落時の対処法などを考える体験会を開催。参加した県内の視覚障がい者らは、実際に線路に降りて線路からホームまでの高さを確認し、転落した場合の避難方法などの訓練を実施しました。大山さんは「ホームドア設置などの転落防止策はもちろん大事ですが、僕たち障がい者も『自助努力』をすることが必要です。いざという時に、障がい者と、職員や近くにいる人たちが助け合えるかどうか。こうした『生きた訓練』をすることが、事故防止につながっていくのでは」と力を込めて語ります。
さらに、「これからも、みんなを元気にする音楽を作り続けたい。そして将来的には、障がい者支援の活動にも打ち込み、障がい者が知識や教養を広げるお手伝いをしていければ」と話し、活動の幅を一層広げていきたい考えです。