「障がいは一つの個性だ」。僕はこう思います。確かに、障がいがあると生きる上で大変なこともありますが、誰かが手を差し伸べれば、普通に生活できる人も少なくありません。面倒を見る側と見られる側に分かれるのではなく、同じ土俵に立って、生活しづらいところをサポートするという視点が大事だと僕は考えています。僕は、20代で長野県茅野市にある諏訪中央病院に赴任し、地域医療で障がいがある人とも交流する中で、こうしたことを教えられてきました。
一方で、現在、新型コロナウイルス感染症によって福祉・介護の現場は大きな影響を受けています。欧米では、コロナによる死亡者のおよそ半分が福祉・介護施設で亡くなっており、介護はどうしても3密になりやすいことを考えると、日本でも福祉・介護施設での感染爆発を防がなくてはなりません。
僕たちは全国の施設に「物」「人」「心」を送ろうと支援を続けてきました。歌手のさだまさしさんが設立し、僕も評議員を務める「風に立つライオン基金」で寄付金を集めて、マスクや消毒液を送ったり、感染予防の勉強会をするために医師や看護師を派遣したり、介護している人たちを、さださんや僕がオンラインで励ましたりと、そうした活動に取り組んできたところです。
僕たちは今まさにコロナと闘っている最中ですが、一方で、コロナが怖いからといって、障がい者や高齢者が自粛し過ぎて閉じこもれば、体が虚弱になったり、認知機能が低下したりする恐れがあります。お住まいの地域の感染状況をよく見て、そこまで感染が広がっていなければ、あまり怖がり過ぎずに、必要なケアを受け、体も動かしてほしいと思います。
全国的に自粛要請が出されていた頃、80代のレビー小体型<しょうたいがた>認知症のおじいちゃんが僕の外来にやって来ました。この認知症は、体を動かして普通の社会生活を送っている方が、長く認知機能が落ちないといわれています。おじいちゃんは、僕がそのように説明したことを受けて、毎日、外へ出て散歩していると話してくれました。知り合いと会っても、手を上げてあいさつするくらいで立ち話もしないなど、彼なりに3密を避けながら行動してきたそうです。また、僕は、福島県に住む目の不自由な方とも手紙のやりとりをしていますが、その人も「できるだけコロナ前の生活を続けられるようにしています」と教えてくれました。こうした工夫が非常に重要です。
現在、ソーシャルディスタンスといって、人と人との距離を取ることが求められていますが、やはり人と触れ合わないと認知機能は落ちてしまいます。大切なのは「ソーシャルコネクティング」。つまり、物理的には離れていても、社会的につながっていることです。こんな時だからこそ、目の不自由な方も携帯電話や会員制交流サイト(SNS)を上手に利用しながら、人と連絡を取り、話し合うことが大事だと思います。
他にも、視覚障がい者の場合、ケアを受けるときの3密ばかりが指摘されますが、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の方たちは、職業としての3密があるために仕事が減っています。政府は実態をよく調べて、生活に困らないようにするべきです。また、災害が起きたときの避難所についても、十分な感染対策とともに、障がい者の安全や人権にも配慮した運営が求められています。
長寿社会になって、誰でも、いつ障がいがある状態になるか分からない時代に僕たちは生きています。だとすれば、障がいがあっても生きやすい社会をどうつくるかが今、問われているのではないでしょうか。弱者やハンディキャップのある人が生きやすい社会ができていれば、病気や障がいがあっても人生を投げ出さないで生きることができますし、それは結局、全ての人にとっての安心につながります。そうした社会が築かれることを切に願っています。