女性心理に好影響もたらし、生きる力に
スポンジや筆<ふで>といった化粧道具をほとんど使わず、手や指で化粧する「ブラインドメイク」が、女性心理に好影響をもたらし、生きる力になることで話題になっています。大人の女性にとって、日常的な行為ですが、目が見えないことで化粧ができず、外出をためらう人も少なくないといいます。こうした視覚障がい者を支援しようと、「ブラインドメイク」の普及に取り組む「日本ケアメイク協会」(大石華法<おおいし・かほう>代表)の活動を紹介します。
化粧プログラムの一つである「ブラインドメイク」は、社会福祉学の研究者で、美容<びよう>研究家の大石華法・日本ケアメイク協会代表が考案したもので、鏡を見ずにフルメイクに仕上げられる化粧方法です。
例えば、マスカラを塗<ぬ>る時、周りにマスカラがはみ出ないよう、医療用のマスキングテープを目の周<まわ>りに張るなど、きれいに、かつ簡単に化粧できる工夫が施<ほどこ>されています。また、アイシャドーやアイライン、口紅などを塗る際は、指を使って、顔の中心から外側へと左右対象に塗ることがポイントです。
「直接、手や指で顔に塗っていくため、ファンデーションのパウダーの量などは、何度も繰り返して訓練することで、適量を感覚で把握<はあく>できるようになる」(大石代表)といいます。
レッスンではまず、メイクの前に、肌作<はだづく>りのためのスキンケアを徹底して参加者に伝えることから始まります。その後、参加者の希望を聞き、肌の色とファンデーションの色合いの組み合わせなどをアドバイスしながら進めていきます。
「『目が見えないのに、どうしてメイクをするのか?』と疑問に思う人も少なくありません。こうした視覚障がい者への社会の理解が進まない中でも、ブラインドメイクを学びたいと多くの方がいらっしゃいます」と大石代表。「化粧できる」という女性としての自信を身に付けることで、歩き方や姿勢、社会参加への考え方、生き方も変えていくことができるといいます。
大石代表は、視覚障がい者の女性へのサポートをきっかけに、この「ブラインドメイク」を確立。同協会を立ち上げ、2010年から、大阪を拠点に個人レッスンを始め、これまでに100人以上の視覚障がい者の女性が、フルメイクできるように。
レッスンは、協会のホームページ(HP)などから申し込むことができ、参加者の習得状況にもよりますが、1回2時間、10回程度のレッスンで、一人でフルメイクできるようになります。
また、国外からの参加希望者が増えるなど、反響が広がっていることもあり、日本ケアメイク協会では、視覚障がい者に「ブラインドメイク」を指導する「化粧訓練士」も養成しています。
取材で訪ねた日、女性2人が「ブラインドメイク」を学びに来ていました。
大阪市内からレッスンに通う坂本栄美<さかもと・えみ>さんは、「今までできないと思っていた化粧が、少しずつできて、毎朝の化粧が楽しくなりました。表情が変わったのか、職場でもあいさつしてくれる人が増えました」と、笑<え>みを浮かべていました。また沖縄<おきなわ>県からレッスンを受けに来ていた石垣愛華<いしがき・あいか>さんは、「化粧を通して、自分の唇<くちびる>や目、顔の形を初めて知りました。家族も、化粧がどんどん上手になっていく様子に驚いています」と誇らしげな表情。
大石代表は「ブラインドメイクは、視覚障がい者の女性の笑顔、元気を増やしていける力を持っていると考えています。こうした力を社会に還元できるよう、化粧の力を研究していきたい」と語っていました。
【おおいし・かほう】
大阪府生まれ。日本福祉大学<にほんふくしだいがく>大学院福祉社会開発研究科社会福祉学専攻博士課程在学中。主な研究論文に「ロービジョン検査判断材料としてのブラインドメイクの検討―福祉から医療の領域拡大の可能性について―」など。日本ケアメイク協会のホームページは、http://www.caremake.jp/。