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点字こうめい No.80

<特集>
支える側も楽しめる
障がい者スポーツの魅力を探る

 【前文】

 新型コロナウイルス拡大の影響で、東京パラリンピックの開催は来年夏に延期されましたが、障がい者スポーツへの関心は変わらず高まっています。障がい者スポーツには、選手だけではなく、支え手として参加し、共に競技を楽しめる種目もあります。そこで、マラソンとサッカーで視覚障がい者を支える人々を追いました。

 【本文】

 ■「きずな」を握り足並みそろえる/ブラインドマラソン

 2002年1月から埼玉県戸田市で活動する「伴走伴歩<ばんそうばんぽ>の会」の練習会を訪ねました。同会は毎月第2日曜日、市内の荒川土手に伴走者を含め5~8人ほどが集まり、約8キロをランニングしています。この日も晴眼者の男性が、視覚障がいのあるランナーに声を掛け、ロープを共に握りながら足並みそろえて走っていました。

 「走るのは苦手と言う人でも、伴走なら自分も一緒に楽しめるところが魅力なんです」。こう話すのは同会の加藤哲義<てつよし>代表(44)。ブラインドマラソンは障がい者と晴眼者が一緒に取り組むことができ、障がいへの理解も深まるスポーツです。

 加藤さんがブラインドマラソンに関わるきっかけは、かつて視覚障がい者の外出を支援する「同行援護<どうこうえんご>」を学んだ経験を地域活動に生かそうと、社会福祉協議会を訪れた際、伴走者のボランティアに誘われたことです。

 ぜんそくのため、子どものころから走るのが苦手で、伴歩はできても伴走は務まらないと思っていた加藤さん。しかし、支えるはずの視覚障がい者が、逆に加藤さんのペースに合わせて〝伴走〟してくれたことで走る楽しみを知り、今では10キロマラソンも走れるまでに。「2人で走れば『桜が咲いてますよ。香りがしますね』と景色や会話を楽しめるのも、伴走の魅力」と語ります。

 同会の伴走ボランティアの一人、野口雅秀<まさひで>さん(56)も「伴走は相手に歩幅を合わせたり、障害物に注意したりと、一人で走るよりも体力を使うんです。大変だと感じることもあるけど、逆にそこに奥深さがある」とうなずきます。

 ブラインドマラソンは、伴走者が「きずな」と呼ばれる1メートルほどのロープを輪にして、視覚障がいのあるランナーと握り合いながら「左に曲がります」「段差があります」などと案内しながら走ります。コースの状況を伝えて、ランナーの安全を確保することが伴走者の大きな役割です。競技会では、全盲者の「T11クラス」と、重度弱視者の「T12クラス」の選手に伴走者は付きます。伴走者がランナーを引っ張ったり、先にゴールしたりすると失格となります。

 同会の視覚障がい者ランナー、鈴木義美<よしみ>さん(63)は「最初は伴走者のことをなかなか信頼できず、安心して走れるようになるまで半年くらいかかった。だけど今は、風を切って一緒に走るのが本当に楽しい」と話します。

 鈴木さんは38歳の時に交通事故で全盲となり、点字サークルでの出会いをきっかけにブラインドマラソンを始めました。伴走伴歩の会には設立当初から参加していて、「18年経った今でも続けているのは、会にはいい仲間がいるから」と語っています。人生の〝悪路<あくろ>〟〝難路<なんろ>〟を走破<そうは>してきた鈴木さんですが、その勢いはマラソンにとどまらず、14年には歌と傾聴<けいちょう>を行うボランティア団体を立ち上げ、精力的に活動しています。「障がいがあってもボランティアとして誰かの役に立てる。この前も訪れた施設のお年寄りから、『仲間に入れて』って言われたよ」と元気に話していました。


 ■言葉が選手の〝目〟となり通じ合う/ブラインドサッカー

 ブラインドマラソンと違って、直接、プレーヤーに接触せずに、支えるスポーツもあります。その一つがブラインドサッカーです。

 視覚は〝情報の8割を得る〟と言われるほど重要な機能ですが、ブラインドサッカーはその視覚を遮断<しゃだん>してプレーします。国内大会では、アイマスクをして完全に目隠<めかく>しをすれば、晴眼者でも視覚障がい者と同じコートに立てるのが特長です。フットサルと同じ大きさのコートの中で行い、頼りになるのは転がるとシャカシャカと音が鳴る特殊な専用ボールの音と、監督や選手同士のかけ声だけです。互いの存在を知らせ、危険な衝突を避けるため、コート内にいる選手はボールを持った相手に向かっていく時、「ボイ!」と大きな声を出します。

 中でも特徴的なのは、「ガイド」と呼ばれる晴眼者の存在です。ガイドは、相手ゴールの裏側に立ち、味方選手に向かってゴールの位置や距離、角度などを伝える重要な役割を果たし、相手ゴールから12メートルの間にボールがあるときだけ声を出すことができます。

 「8、45、シュート!」――。これは、ボールを持った選手がゴールから距離8メートル、角度45度の位置にいるという意味です。NPO法人「日本ブラインドサッカー協会」のスタッフで、名古屋市を本拠地とするブラインドサッカーチーム「ミックスセンス名古屋」のガイドを務める髙山ゆずりさん(26)は、ゴールの裏側から声を限りに叫びます。「いかに大きな声で、選手に分かりやすく指示を出すか」を念頭に置いているそうです。

 元々サッカー観戦が好きだった髙山さんは、パラスポーツに携<たずさ>わりたいと考える中で、地元の愛知県で活動している「ミックスセンス」に出合いました。運動が苦手でも試合に参加できることを知り、現在も公式試合などでガイドを務めています。

 髙山さんはガイドの魅力について、「ゴールが決まった瞬間は、選手と言葉で通じ合えたと感じることができます。それがうれしい」と語ります。

 同チームの杉山弘樹選手(30)は、試合に出場するようになって約4年がたちます。「ガイドは、プレーする選手を声で奮い立たせてくれる心強い存在なんです。見えない状態で動くことには、いまだに怖さはあります。しかし自分の 〝目〟となって状況を伝えてくれるので安心感がある」と言います。「ゴールを決めた時に、ガイドが自分の元へ真っ先に駆けつけてくれて、喜びを共有できるのは格別。これこそ〝見えている・見えていない〟を越えて、協力し合って競技するブラインドサッカーの魅力」とも。

 日本ブラインドサッカー協会広報室の源友紀美さん(28)は、「想像を超えるスピード感や迫力が、ブラインドサッカーにはあります。障がいの有無にかかわらず、『誰かを支えよう』という気持ちだけではなく、自身のやりがいや楽しさを感じながら、協会事業やチームに関わっている人がたくさんいます。今後もボランティアや試合を観戦してくれた方と会話しながら、さまざまな関わり方があることを伝え、プレーヤーやサポーターを増やしていければ」と意気込んでいました。