HOME > 商品詳細2

点字こうめい No.77

<特集1>本記
当事者の視点を生かして/注目集める「ユニバーサルマナー」

 高齢者や障がい者、外国人など、さまざまな人々とともに暮らすための配慮<はいりょ>やサポートの指針となる「ユニバーサルマナー」が、注目を集めています。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、〝自分とは違う誰か視点〟をどう身に付けるべきか。多様な人々への対応方法をマナーとして学ぶ「ユニバーサルマナー検定」の講座を取材するとともに、一般社団法人・日本ユニバーサルマナー協会理事の岸田<きしだ>ひろ実<み>さんに話を聞きました。

 ユニバーサルマナーとは、高齢者や障がい者など、自分とは違う誰かの視点に立って考え、コミュニケ―ションやサポートを行うためのマナーです。日本ユニバーサルマナー協会が13年8月から検定事業を始めました。基礎知識を学ぶ3級と、具体的なサポート方法を身に付ける2級があり、これまでに約6万人が受講。個人での受験のほか、約600の企業・団体が検定を導入しています。

 ユニバーサルマナー検定の取得講座は、企業の要請に応じて出張方式で開催されるほか、個人で受講できる講座が東京、大阪、福岡などを中心に全国で順次<じゅんじ>開催されています。3級はオンラインでの受講も可能で、同検定の公式ウェブサイトで受け付けています。

 「『大丈夫ですか?』ではなく、『何かお手伝いできることはありますか?』と、まずお声掛けしてください」――。9月、大阪府男女共同参画・青少年センター(大阪市)で一般向けに行われた3級の講座で、講師を務める岸田さんはこう説明しました。一般的に「大丈夫ですか?」と聞くよりも、相手は答えやすくなるからだといいます。

 講座では当事者の視点を生<い>かすため、講師全員が何らかの障がいがあります。岸田さんも、知的障がいのある長男の出産、最愛の夫の突然死を経験。その後、自身も40歳で大動脈解離<だいどうみゃくかいり>という血管の病<やまい>の後遺症<こういしょう>により胸から下が麻痺<まひ>し、車いす生活を送っています。約2年に及ぶリハビリ生活の中、死も決意するほど絶望を感じていましたが、長女・奈美さんの励ましをきっかけに生きる力を取り戻し、人生を切り開いたそうです。これまでに乗り越えてきた数々の経験を生かし、ユニバーサルマナーの普及に情熱を注いでいます。

 岸田さんは「スロープを設置するには広さやお金がないとできません。しかし、たとえ段差があってもサポートする方法を知っていれば、その段差も苦になりません。(設備などの)ハードは変えられなくても、ハート(心)は変えられます」と語ります。

■支援に特別な知識は不要

 内閣府の調査(17年度)によると、障がいのある人に手助けをしたことがない理由として「どのように接したらよいかわからなかった」「お節介<せっかい>になるような気がした」「専門の人や関係者にまかせた方がよいと思った」という回答が並びます。このため講座では、手助けに特別な知識や高度な技術は必要ないことを受講者に伝えています。

 岸田さんは「その人自身が何を必要としているかを問い掛けることが大切」と指摘します。例えば、飲食店に車いすの客が来ると、店員がテーブルの椅子<いす>を外して席に案内しますが、実は車いすから椅子に移動したい人もいるとして、「同じ状況、同じ環境であっても考えていることはそれぞれ違います。決まった答えは存在しません。だから、まず声掛けから。押し付けではなく選択肢<せんたくし>を与えることが適切なサポートにつながります」と強調しました。

 この日の3級取得講座では、障がい者や高齢者がどのような場面で不安や不自由さを感じているかを体系的に学んだ後、障がい者が実際に困っている場面の写真を見て、声の掛け方や適切なサポートの仕方を考えるグループワークが行われました。

 同会場で3級の取得講座に参加した新潟県在住の女性は「早速、自分のできることを考えて行動していきます。職場の人たちにも今日学んだことを伝えたい」と意気込みを語っていました。

 ユニバーサルマナー検定3級は、講座を受講すれば取得できますが、2級はより専門的な講座と実技研修を受け、試験に合格する必要があります。

 2級では、視覚障がい者の白状<はくじょう>にはむやみに触れてはいけない、聴覚障がい者への口話<こうわ>は一文字ずつ区切るのではなく単語で区切って話す――といった具体的な対応を学びます。また、高齢者が感じる不便さを疑似<ぎじ>体験できる道具を着用しての階段の上り下りや、車いすを押して段差を越えたり、目隠しをして白杖で歩くといった実技もあります。

■多くの企業・自治体も導入

 東京五輪・パラリンピックを前に、ユニバーサルマナーが広がる機運は高まっています。

 例えば、飲食店や小売店、ホテル、結婚式場など接客を伴<ともな>うサービス業で関心が高くなっているほか、金融機関やメーカー、教育機関、自治体などでも検定を導入するケースが増えています。

 中でも、茨城県笠間<かさま>市では今年、61人の職員がユニバーサルマナー検定の3級を受講しました。同市の担当者は「障がいのある人たちに対する適切な接遇<せつぐう>について、これまで漠然<ばくぜん>としていましたが、受講したことで声の掛け方や具体的なサポートの方法を学ぶことができました。これからの市民サービスの向上に役立てていきたい」と語っていました。