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点字こうめい No.76


2<特集>インタビュー
長岡英司・日本点字図書館館長に聞く

多様化するニーズに応<こた>える音訳技術へ


――音訳の現状は。

長岡
 音訳の誕生から60年、オープンリールから始まった録音図書は、カセットテープ、CDなど媒体が変わるとともに、利用しやすくなりました。音訳のおかげで、視覚障がい者の情報収集の手段や読書環境は大きく向上しました。それに伴い、視覚障がい者のニーズも多様化しています。

 なかでも、日本点字図書館でよく利用されている「音声デイジー図書」と呼ばれる録音図書は、一冊の「墨字」の本を人の肉声で読み上げて録音し、パソコンや専用機器などを使って再生、検索ができるように編集したものです。

 一昔前は、録音図書を利用するには、図書館にリクエストしてカセットテープを自宅に郵送してもらうしかなく、利用後は期限内に返送しなければなりませんでした。郵送ケースが何箱にもなるのが一般的でしたが、今はサピエ図書館からいつでも自由にダウンロードして、期限にとらわれることなく聞くことができます。ここまで便利になるとは考えもしませんでした。

――録音図書は点字の代わりとなりますか。

長岡
 目的によって音訳、点訳それぞれに善<よ>しあしがあると思います。点字を習得している人であれば、語学の勉強や数式、楽譜、メールアドレスやインターネットのURL<ユーアールエル>などは音声で聞くよりも点字で読んだ方が確実です。聞き間違えも起こりにくい。 また最近では、テキストデータに検索できる情報を組み込み、必要な箇所<かしょ>を合成音声が読み上げる「テキストデイジー」と呼ばれる形式の図書も普及しつつあります。

 一冊の本を、ある部分は点字でゆっくり読み、ある箇所は音声で楽しむということができれば、視覚障がい者の読書環境はもっと良いものになるはずです。

――合成音声による読み上げ機能は、今後、音訳の主流となり得ますか。

長岡
 現在、当館でも職員と多くのボランティアが知恵を出し合いながら、録音図書を作り上げています。私どもは、人間の知性と感性が介在<かいざい>することで、合成音声では表現できない良さがあると考えています。今後、さらに技術が向上して、音声読み上げ機能など音訳の世界は一層便利になっていくと思いますが、肉声による音訳はなくならないでしょう。

――公明党に期待することは。

長岡
 まず、民間の新たな技術開発が進むよう後押しをお願いしたい。たとえば、パソコンの画面に表示された文字情報を点字に変換して、配列されたピンの上げ下げで表示する「点字ディスプレイ」という道具がありますが、1行分の40マス程度しか表示できません。1ページ分が読める便利なディスプレイの開発が、多くの点字利用者から求められています。

 また、現在当館の音訳ボランティアの方々は無償<むしょう>で作業に取り組んでいただいています。その方々が少しでも快適に作業できるよう、パソコンの整備をはじめとした環境作りへの支援もお願いしたい。