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点字こうめい No.75


2<特集>インタビュー
大倉元宏<おおくら・もとひろ>・成蹊<せいけい>大学理工学部教授に聞く

再発防止へ、転落事故の調査を


――視覚障がい者の鉄道駅ホームからの転落事故が問題となっています。

大倉元宏教授
 転落を防ぐ万全<ばんぜん>な対策は、ホームドアを設置することです。ただ、莫大<ばくだい>な費用がかかることなどを考えると、短期間で整備が進むとは思えません。別の対策を考えなければなりません。

――具体的にはどのような対策でしょうか。

大倉
 まず、第三者機関による転落事故の調査を行うべきです。私は視覚障がい者の転落事故について、当事者<とうじしゃ>から聞き取り調査を行いましたが、その中にはホームにある待合室<まちあいしつ>のガラスを電車の車体<しゃたい>のガラスと勘違いして向きを変えたために、ホームに落ちた事例もありました。専門家チームが現場に出向き、過失の所在ではなく、再発防止のための調査・分析をする必要があります。その上で、事故の調査組織として、国の運輸<うんゆ>安全委員会が、視覚障がい者のホーム転落事故を調査対象に加<くわ>え、取り組んでもらいたい。

 また、駅ホームの造<つく>りは標準化<ひょうじゅんか>されていないため、線路と並行に長距離を歩かなければならない場合が少なくありません。そこで、ホーム中央部に線路と平行して、線状<せんじょう>ブロックのような明確な触覚的<しょっかくてき>手掛かりを敷設<ふせつ>するのも一つの手だと思います。

 一方で、最も即効性がある防止策は、一般乗客の手助けです。駅員が適切な案内の仕方のモデルとなり、広く周知してもらいたい。

――視覚障がい者側で、できる防止策は。

大倉
 転落をなくすには、視覚障がい者側の対処<たいしょ>も重要です。成人してから視覚能力が低下する中途視覚障がい者が多く、歩行訓練を受けていない人も少なくない状況です。ぜひ一人で歩く人は、適切な訓練を受けて、白杖<はくじょう>での歩行技術を身に付けた方がいいでしょう。ガイドヘルパーなどのサービスもありますが、自然災害時を考えると、単独歩行の技術を持つことは重要です。

 ただ、歩行訓練のサービス提供体制が全国的に整っているとは言えないため、充実・強化を図る必要があります。

――視覚障がい者が安心して歩行できる街にするためには。

大倉
 視覚障がい者が比較的歩きやすいのは、明確な手掛かりに沿<そ>って歩くことです。歩道の幅が広ければ、点字ブロックを整備するなど、できるだけ手掛かりとなる境界線<きょうかいせん>のある街づくりをするべきです。

 その上で、視覚障がい者の中には、ロービジョン(弱視)の人もいます。ロービジョンの人は、明るさの対比で境界線を認識する人もいるため、点字ブロックと路面の色の濃淡<のうたん>が分かるようにする必要があります。

 一方、視覚障がい者には、ある地点から数メートル以上離れた他の地点へ直進する場合、実際の歩行軌跡<きせき>が左右どちらかに曲がってしまう偏軌<へんき>傾向と呼ばれる特徴があります。このため、横断歩道を真っすぐ歩行するのは難しい。視覚障がい者が横断歩道から外れることなく横断できるよう、点状の突起でラインを付ける「エスコートゾーン」の敷設や、歩行者用信号の青時間帯に音を出して知らせる音響<おんきょう>式信号機の設置が求められます。

 また、障害物を回避して、元の進路を維持することもなかなかできません。たとえ、前から来る歩行者にぶつかってエスコートゾーンから外れた場合でも、他の手掛かりで横断できるようにしてあげることが重要です。