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点字こうめい No.74


<人間登場>
30年余、「てんやく絵本」を製作

後進の育成も精力的に取り組む
「てんやく絵本 ふれあい文庫」代表 岩田美津子<いわた・みつこ>さん

 NPO法人「てんやく絵本 ふれあい文庫」の代表を務める岩田美津子さんは、本格的な点訳した絵本を発案し、仲間と手作りしたものを無料で貸し出す取り組みを、33年にわたって続けています。昨年11月、視覚障がい者の文化向上に貢献した人に贈られる「第13回本間一夫<ほんま・かずお>文化賞」を受賞。岩田さんは受賞に対して、「私たちが地道にやってきた活動を評価してもらえたことはうれしいですし、励みになる。でも、同時に今後の期待も含まれていると思いますから、責任も感じます」と、意欲をみせています。

 岩田さんは、先天性緑内障<せんてんせいりょくないしょう>で生まれつきの全盲。結婚後、当時1歳だった息子さんから絵本を読んでほしいとせがまれたことが、この世界に入るきっかけでした。「私も子どもに絵本を読んであげたい」と思い、そこから試行錯誤<しこうさくご>が始まります。友人らに協力してもらいながら、1981年に初めて、手作りの「てんやく絵本」を製作。「てんやく絵本」は、市販の絵本に、文章を点字で示したり、絵の形も触ってわかるように絵柄に合わせて切ったシートを貼ったものです。目が見える人も見えない人も一緒に楽しめるのが特徴です。約100冊がそろった84年、「ほかの見えないお母さんも、わが子に読んであげられるように」と、ふれあい文庫の前身となる「点訳絵本の会 岩田文庫」を自宅に創設。全国各地への貸し出しも行うようになりました。

 文庫の「てんやく絵本」は、ボランティアの手で、一冊ずつ手作業で製作します。これまでに製作された絵本は1万タイトルを超え、点訳や蔵書の管理、発送など文庫の活動に関わるボランティアは、全国に約130人。現在、文庫にある蔵書数は約8000冊で、文庫創設時からの貸し出し数は延べ14万冊を超えました。貸し出し先は、個人をはじめ盲学校、図書館など多岐<たき>にわたります。これまでで一番うれしかったことは、岩田さん自身が実現に向けて奔走し、87年にてんやく絵本が「点字郵便物」として郵送料無料化につながったこと。周囲から「たった一人の主婦の願いが郵政省<ゆうせいしょう>(当時)を動かしたのは、すごい」と、よく言われたことを振り返ります。

 岩田さんは現在、絵本を点訳するボランティアの育成にも力を入れています。点訳担当のボランティアには、学習用に作成したテキストやDVDなどを活用し、貸し出しの絵本が作れるようになるまで、最短でも約1年間は試作品で練習をしてもらうそうです。ボランティアから届いた点訳済みの本が書棚に収まる前には、晴眼者<せいがんしゃ>のスタッフが協力し、岩田さんも念入りに最終チェックを行います。「絵の部分の貼り方や、内容がちゃんと伝わるようにきちんと説明が添えられているかなど、細かいところまでこだわる」といい、触ったときのわかりやすさや正確さを心がけます。その上で、点訳ボランティアとは、必ず手紙でやり取りをし、コミュニケーションを図るようにしています。「手紙には、どこが良かったとか、ここはもっとこうしたほうが良いといったことをはっきり伝えます」と語ります。メールよりも手紙にこだわる理由を聞くと、「メールは楽だけど、その分、その人の記憶から消えるのは早いと思うんです。自分の気持ちを、相手の心にどう残せるか。ボランティア活動は、〝人〟があってこそ。今の時代だからこそ、一人の人に向き合う時間を大切にしたい」。そんな岩田さんの思いはしっかりと伝わり、それを受け継ぐ後進のボランティアが今、陸続と育っています。

 一方で、見えない人が楽しめる絵本の普及には手作りだけでは限界があると感じていた岩田さんは、「通常の出版物として、誰もが書店で買えるようになれば」と、2002年に出版社の編集者らと「点字つき絵本の出版と普及を考える会」を発足。「私の今後のライフワークになっている」と語るように、出版社から点字つき絵本が発刊される時には、自身も企画段階から関わるなど全面的に協力します。その結果、岩田さんの熱意が編集者らの心を動かし、点字つき絵本の出版も少しずつ増えており、現在も新たな出版社への働きかけを精力的に行っています。

 次の目標を聞くと、「絵本は『見て触って楽しめるもの』という概念を広めたい。見える人も見えない人も皆が楽しめる絵本が、当たり前のように書店で買えるようになることです」と元気いっぱいに語る岩田さん。その夢の実現まで、これからも挑戦は続いていきます。