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点字こうめい No.74


1<特集>本記
・ルポ・補助犬への理解、もっと深めて
 東京パラリンピックへ、協力体制を

 不特定多数が利用する施設で盲導犬などの補助犬の受け入れを義務付けた「身体障害者補助犬法<しんたいしょうがいしゃほじょけんほう>」の施行<せこう>から今年10月で15年を迎<むか>えます。障がい者にとって〝体の一部〟同然の補助犬ですが、同伴<どうはん>を拒否する飲食店や医療機関は、いまだ少なくないと指摘されています。目の不自由な人が鉄道駅ホームから転落する事故も後を絶<た>ちません。そこで、盲導犬を連れた視覚障がい者が日常生活を送る上で、どのような危険や課題があるのか。日本盲導犬協会の森川加奈子<もりかわ・かなこ>さんに同行取材するとともに、日本身体障害者補助犬学会の理事で、日本介助犬協会の常務理事でもある髙栁友子<たかやなぎ・ともこ>さんに課題を聞きました。

 森川さんは先天性<せんてんせい>の病気の影響で、中学生の頃から少しずつ視野が狭<せま>くなっていき、いまでは太陽のような強い光しか感じられないほど視力が低下しています。「白杖<はくじょう>を使って歩いていたこともありましたが、スピードを上げて歩きたいので、いまは盲導犬と一緒に歩いています」と語ります。

 現在、日本盲導犬協会の神奈川訓練センター(横浜市)で働いており、同センターに向かう場合、最寄<もよ>り駅である東急東横線・綱島<つなしま>駅まで電車を使っています。

 記者は夕方5時、森川さんの通勤経路である東京メトロ日比谷線・茅場町<かやばちょう>駅のホームから、帰りのルートに同行しました。盲導犬を連れた視覚障がい者が線路に転落する事故が相次<あいつ>いでいることから、普段、利用している通勤経路にどのような危険が潜<ひそ>むか探<さぐ>るためです。森川さんもかつて、白杖を使っていた時、駅ホームに停車中の列車の連結部に誤<あやま>って転落し、大けがを負った経験があります。

 盲導犬はカーナビのように目的地まで連れて行ってくれるわけではありません。森川さんは駅構内のルートを頭に描きながら、音声案内などを頼<たよ>りに盲導犬に指示を出し、東京メトロ東西線ホームへの下<くだ>りエスカレーターに向かいます。エスカレーターに乗る直前、盲導犬が一旦<いったん>歩みを止めます。そして「オーケー、ゴー」という森川さんの英語による指示に従ってゆっくりエスカレーターに乗ります。

 ホームに降り立つと、敷設<ふせつ>されている点字ブロックまで歩き、電車を待ちます。東京メトロ東西線・茅場町駅のホームは、両側に線路がある「島式<しましき>ホーム」である上に、ホームドアが設置されていません。森川さんは「地下鉄の駅ホームでは、音が反響<はんきょう>してどちらに電車が入ってきたのか分かりにくいときがあります」と危険性を指摘しました。

 また森川さんは以前、駅ホームで乗客が盲導犬の頭をなでて気を引いたために勝手<かって>に動き出し、どちらが線路側か方向感覚を失って「前に出ていいか、後ろに下がっていいかも分からなくなった」ことがあります。この時は、携帯していた白杖で周<まわ>りを確かめながら慎重に歩き、事<こと>なきを得たといいます。こうしたこともあり、森川さんは「最短距離で乗り降りできるよう工夫しています」と話します。

 電車のドアが開き、車内に乗り込むと少し混<こ>み合っています。森川さんは他の乗客の立つ場所を気配<けはい>で確認しながら、盲導犬の体勢を調整。途中の駅で、多くの客の乗り降りがある中、乗降客の影響で自身がどこに位置しているか分からなくなる恐<おそ>れがあります。こうした場合、森川さんによると「東西線のアナウンスは聞き取りやすく、駅到着前にどちらのドアが開くか伝えてくれるので助かっています。またドアの開閉<かいへい>時には〝キンコン〟という音が鳴るので、それを頼りに自分の体が向いている方向を確認してます」と教えてくれました。

 乗車後、約20分。自宅の最寄り駅に到着し、行きつけの飲食店に向かいました。駅を出てすぐ、信号のない横断歩道があります。森川さんは音や気配で車が来ないことを確認し、盲導犬に指示を出します。「ここは駅前なので頻繁<ひんぱん>にタクシーが停車しているようです。渡ろうとしたときに、近くで停車していた車が急に発進してびっくりした経験もあります」と健常者では容易に危険を認知できることが、難しい実情を語っていました。

 身体障害者補助犬法は盲導犬のほか、手足が不自由な障がい者を手助<てだす>けする「介助犬<かいじょけん>」、聴覚障がい者に音を伝える「聴導犬<ちょうどうけん>」の3種を補助犬と規定<きてい>。補助犬のユーザーには衛生面や健康の管理、予防接種<せっしゅ>や検診などが徹底<てってい>されています。また、公共施設や交通機関、飲食店、医療機関などは、補助犬の同伴を拒<こば>んではいけないと定<さだ>めています。

 しかし、森川さんはこれまで受け入れ拒否を数多く経験してきたといいます。「ある店では、私が盲導犬を連れていることに店員が気付いて、店内はガラガラなのに『空<あ>いている席は全部予約で埋<う>まっています』と断られたことも」と悔<くや>しそうに話します。このため、法律ができた今でも入る時には「断られないかヒヤヒヤする」そうです。

 森川さんの来店をきっかけに補助犬への理解を深めたという飲食店店長の實川智哉<じつかわ・ともや>さんは「これまで森川さんと接してきて、補助犬がとても利口<りこう>だと改<あらた>めて実感しました。『別の店で断られたので来店した』と森川さんに言われたとき、自分の店を選んでもらえてよかったと思いました」と話します。森川さんは、忙しいときなどは自然と入店が断られにくい店を選んでいるとした上で、「法律があるから仕方なく受け入れる店よりも、気持ちよく迎え入れてくれるところでは料理の味が増<ま>す気がします」と笑顔を見せていました。

求められる補助犬への理解

 補助犬の認知度<にんちど>を上げるには、多くの人が実際に活躍を目にする機会が必要です。しかし、実働数の増加ペースは補助犬法施行直後と比べると、緩<ゆる>やかなままです。厚生労働省によると、2017年3月1日時点の盲導犬は966頭<とう>、介助犬は74頭、聴導犬は69頭にとどまっています。

 厚労省はリーフレットを作成するなど、補助犬制度の啓発活動を行っています。2020年東京五輪・パラリンピックを控<ひか>え、補助犬を連れて来日する外国人客の増加が見込まれます。行政や交通機関、商業施設などが協力体制をとり、補助犬や使用者への、より一層の理解が進むことが求められます。