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点字こうめい No.73


<人間登場>
幻想的な色彩世界に共感

絵画通し勇気や希望届けたい
  是永昭宏<これなが・あきひろ>氏

 「自分が絵を描<えが>くことによって、一人でも多くの人に勇気や希望を届けられたら」と語るのは、視覚障がいを抱えながら、画家として活躍する是永昭宏さん。その「こころの眼」から生まれる絵画は、例えば風景をそのまま描くのではなく、自分が感じた雰囲気や香り、情景などを、色彩豊かに幻想的<げんそうてき>な色使いで表現。そうした作品から、第8回ガレリア・レイノ大賞展「大賞」など多くの賞を獲得し、見る人に感動を与えています。

 1971年生まれ、広島市出身。子どもの頃から絵を描くのが好きだったという是永さん。異変が起きたのは、高校2年生の夏、右目の視力が低下。やがて、左目も見えにくくなり、両目とも視力は0・01程度まで落ちてしまいました。両目の視野中央が全く見えない状態で矯正をすることもできず、その後もあらゆる治療法を試みましたが、原因不明と診断され、建築デザイナーの夢も断念。「まさか自分が目の障がいを持つとは思わなかったので、現実を受け止められず、ショックだった」と当時を振り返ります。

 一度は絵の道を諦<あきら>めましたが、21歳の時、パン工場でアルバイトをする中、趣味の一つになればと、絵画教室で油絵を始めるようになります。そこで、「やればやるほどキャンバスに描く色に深みが出るし、やりがいを持てるように変わり、自分の中で光が見えてきた」ことから、徐々に作品づくりに熱中。見えるものだけにとらわれるのではなく、自分が体で感じたもの、自分の中でイメージしたものを、どう絵に表現していくかを大切にして描くようになったといいます。そして、アマチュア画家の公募展でも入選した頃から、生きる喜びを見いだしていきます。

 その後、28歳で初めて個展を開催。訪れた方々からの「感動しました」「勇気をもらいました」といった感謝、祝福<しゅくふく>の言葉に、自信を深め、自らの可能性に気づくことができたといいます。また作品を通して自分の生き方が、人のためになれるのだということも感じた是永さん。「自分にしか描けない作品」を求め、本格的に画家としての道を歩みはじめました。

 現在は、油彩画<ゆさいが>を中心に、石こうを使った立体的な作画、また石こうとアクリル絵の具などさまざまな材料を混合させた「ミクストメディア」と呼ばれる是永さん独自の制作技法で、数々の作品を手掛けています。顔をキャンバスにすりつけるように近づけ、視界をルーペで補<おぎな>いながら、絵筆<えふで>を運びます。29歳の時からは、自身の絵画教室を開催。週に2回、若者からお年寄りまで多くの参加者が集まりますが、「技術的な指導というより、その人が描きたい絵を描けるよう、ヒントを与えるように、後押ししています」と、地域の人たちの交流も精力的です。

 作品作りに挑む中で、大きな転換点となったのは、長男が誕生した2008年。無の中から生まれる命の輝きに感動し、石こうを使った母子像「いのち」を制作し、全国公募の団体展「光陽展」で最優秀など、多くの賞を受賞。子どもが生まれた時、本当に一つの命の尊さを実感したことと、その後の東日本大震災や、被爆地の広島で生まれ育った経験を通して、一人一人の命について考え、向き合うことが、より多くなったそうです。こうした「いのち」をテーマに掲げたターニングポイントを経て、作品づくりに日々、精進<しょうじん>しています。

 これまで自身の個展は約40回、作品は1000点を超えるという是永さん。「もし自分に障がいがなかったら、普通の仕事をして、自分の幸せだけを求めて生きていたのかもしれない。でも、障がいを持つことによって、いろんな人と出会うことができ、支えられ、幸せな人生に導いてもらいました。今はこの両目があったから、こういう生き方ができたのだと感謝しています」と語ります。まだやったことのない分野にチャレンジして、新しい作品への創作意欲をのぞかす是永さん。たとえ困難にぶつかっても、それを乗り越え、楽しめる自分の姿を通し勇気や力を与えられる存在へ、新たな作品づくりに挑戦は続いていきます。