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点字こうめい No.73


<特集>本記
・世界に広がる「命の道しるべ」
 点字ブロック開発の三宅精一氏生誕90年
 中国や米国など75カ国で導入

 横断歩道の前や鉄道駅のプラットホームなどで敷<し>かれている、凹凸<おうとつ>のある黄色いタイル「点字ブロック」。目の不自由な人が白杖<はくじょう>や足で認識<にんしき>しながら、安心して歩けるように設置されているものですが、これが世界に先駆けて日本で開発されたことは、あまり知られていません。いまでは、アジア、米国、ヨーロッパなど世界各国に広がりを見せています。今年は、その開発者である故・三宅精一<みやけ・せいいち>氏の生誕90年。点字ブロック開発までの足跡<そくせき>や現状について紹介するとともに、バリアフリーに詳<くわ>しい徳田克己<とくだ・かつみ>・筑波大学教授に課題を聞きました。

思いやりから生まれた日本発の発明

 岡山市の実業家、三宅氏が考案した点字ブロックは、1967年3月18日、岡山県立岡山盲学校(岡山市)近くに初めて設置されました。

 きっかけは、一人の視覚障がい者がそろそろと道路を渡ろうとする場面に遭遇<そうぐう>したことでした。視覚障がい者がちょうど道路の半<なか>ばに差し掛かったときです。そのすぐ横を車が勢いよく走り去っていきました。ふと、空を仰<あお>いだ視覚障がい者の心細そうな一瞬の表情。三宅氏の目には、その姿が焼き付きました。

 「目が不自由でも安心して歩ける街にしたい」――。これを機に、街の発明家としても活躍していた三宅氏は、視覚障がい者の安全歩行について日夜、考えるようになります。

 三宅氏は、目の不自由な友人の一つの言葉を思い出していました。「コケと土の境<さかい>は、靴<くつ>を通して分かる」という言葉です。突起物<とっきぶつ>を敷くことによって危険な場所を知らせるというアイデアが思い付きました。

 建築関係の仕事をしていた弟の三郎さんに協力してもらい、コンクリート片<へん>にドーム型の突起物を並べたブロックを試作。突起の形や数は、何度も作り直し、7個×7列の49個に決めました。これが点字をイメージさせたことから、「点字ブロック」と名付けられました。

 三宅氏は、点字ブロックが日本中で使われることを願い、財産をなげうって県や市町村に無償<むしょう>で提供しました。しかし、なかなか理解が得られず、しばらくは、注文どころか問い合わせの電話さえなかったといいます。

 それでも、地道に働き掛けを続けていった結果、1970年に東京都が点字ブロックの採用を決定。これをきっかけに多くの都市で点字ブロックの導入が広がっていきました。

 開発から30年以上かけて日本中に広がった点字ブロックは、2001年に日本工業規格(JIS)によって現在の形に統一されました。

発祥<はっしょう>の地・岡山に記念碑

 点字ブロックが初めて敷設されて43年が過ぎた2010年3月18日。発祥<はっしょう>の地には、当時の点字ブロック3枚が埋め込まれた石碑<せきひ>や記念塔などが建てられました。

 発案したのは、岡山盲学校で教頭をしていた竹内昌彦<たけうち・まさひこ>さんです。竹内さんも視覚障がい者のため、三宅氏の偉業<いぎょう>への恩返しと、点字ブロックへの理解の輪を広げるために取り組んだといいます。

 竹内さんは「視覚障がい者にとって、点字ブロックは〝命の道しるべ〟です。点字ブロックができるまでは、塀<へい>に沿<そ>って歩いたり、溝<みぞ>に杖をはわせたりして、点字ブロックに代<か>わるものを見つけながら歩いていました」と往事<おうじ>を偲<しの>んでいました。

普及する点字ブロック、活用に壁

 岡山県で生まれた点字ブロックは現在、全国に普及し、海外でも中国、韓国、米国、英国など75カ国(徳田教授調査、2016年9月末現在)で導入されています。

 一般的に「点字ブロック」には、点状の突起物がいくつも並ぶ「警告<けいこく>ブロック」と、線状の突起物が付いた「誘導<ゆうどう>ブロック」の二種類があります。「警告ブロック」は、階段や鉄道駅ホームの端<はし>などに敷設<ふせつ>されており、それを越えないように知らせる危険信号の役割を果たしています。一方、進行方向を示す「誘導ブロック」は、その上を歩いていくと、エレベーターや改札口などにたどり着くようになっています。

 ほとんどの点字ブロックは、黄色に塗<ぬ>られています。道路に設置したとき、一番目立つ色だからです。視覚障がい者の中には、物がはっきり見えなくても、明るい部分と暗い部分の差が認識できる人もいます。コンクリートの色とはっきり区別することで、ブロックがそこにあることを知らせます。

 ただ、繁華街<はんかがい>などでは点字ブロック上に自転車が置かれていたり、電柱や建物の柱のすぐ近くに設置されているケースも少なくありません。

 こうした中、8月に東京メトロ・青山一丁目駅で起きた視覚障がい者の駅ホーム転落事故を受けて、ホームドアの設置を加速するとともに、ホーム上の点字ブロックの設置のあり方について見直しが行われています。

 この事故の原因の一つとして、「点字ブロック上に立つ人や柱などの障害物を回避<かいひ>したことにより、方向感覚を喪失<そうしつ>したのではないか」との指摘があります。

 既にこうした事態を回避するのに役立つ「内方線<ないほうせん>付き点状ブロック」が開発されており、東京メトロなど各鉄道会社で導入が進んでいます。これはホーム端に敷設される点状の「警告ブロック」のホーム内側部分に、ホームと平行した線状突起を1本設けるもので、どちらが線路側なのかが容易に確認できる造りになっています。1日の利用者が1万人以上の駅で設置が進んでおり、このうちJR東日本では、14年度末時点で在来線427駅、新幹線23駅で整備されています。

 視覚障がい者団体からホーム転落防止策の要望を受けていた公明党は、ホームドアとともに、内方線付き点状ブロックの設置を後押ししてきました。